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神戸地方裁判所 平成5年(ワ)240号 判決

原告

小山順子

被告

田中照男

主文

一  被告は、原告に対し、金九四〇一万七八三六円及びこれに対する平成二年一二月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを七分し、その四を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一億六八九二万二八四四円及びこれに対する平成二年一二月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  本件事故の発生

次のとおりの交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成二年一二月二二日午前一時四〇分ころ

(二) 場所 兵庫県小野市池尻町四六番地の一付近道路

(三) 加害車両 被告運転の普通乗用自動車(神戸三三な九〇五六)

(四) 被害者 加害車両の後部座席に同乗していた原告

(五) 事故態様 被告が急激なハンドル及び制動操作をしたことにより、加害車両が走行の安定を失い、路外の納屋に突入し衝突した。

2  責任原因

被告は、本件事故当時、加害車両を所有し、自己のために運行の用に供していたから、自賠法三条に基づき原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

3  原告の傷害の内容及び治療経過等

(一) 傷害の内容

原告は、本件事故により、頭部外傷Ⅲ型(びまん性軸索損傷)、頭蓋底骨折、両下顎骨折、右外傷性視神経損傷、遷延性意識障害の傷害を負つた。

(二) 治療経過

原告は、右受傷により、本件事故当日の平成二年一二月二二日から平成三年一二月二九日まで市立三木市民病院に入院し(入院期間三七三日)、平成四年二月一七日及び同年六月九日、同病院に通院した。

そして、原告の傷病は、平成四年六月九日、症状固定した。

(三) 後遺障害

原告は、本件事故による意識障害のため、いわゆる植物状態になり、これは、自動車保険料率算定会調査事務所により自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一級三号の後遺障害に該当すると認定された。

二  争点

1  損害額、特に

(一) 将来の付添看護費

(原告の主張)

原告は、現在、植物状態にあるが、原告が平均余命を越えて生存する可能性があるのであるから、原告が平均余命まで生存するという一種の法的擬制に基づいて将来の付添看護費を算定するべきである。

(被告の主張)

原告は、前記傷害による後遺障害により、瞳孔不同、左対光反射消失、精神機能障害、四肢麻痺、体幹機能障害、便・尿失禁、発語障害、嚥下障害があり、回復の見込みのないいわゆる完全な植物状態にある。

そして、経験則上、このような植物状態患者の場合、肺炎や窒息、縟創による敗血症、尿路感染症等の生命に対する危険に常にさらされているのであつて、平均余命まで生存する可能性は乏しく、事故発生後二〇年以上にわたつて生存する可能性は極めて低い。

したがつて、将来の付添看護費については、平均余命期間ではなく、蓋然性のある生存期間内のものに限定して算定すべきである。

(二) 後遺障害による逸失利益

(原告の主張)

原告は、本件事故当時、年額三三四万一六〇〇円の給料を得ていたから、右金額を基礎として後遺障害による逸失利益を算定すべきである。

また、原告は、植物状態にあるとはいえ、通常人と同様に食事をするほか、栄養剤を使用するなど通常人以上の費用を要するし、住居費や頻繁に交換を要するおしめにかかる費用を必要とするなど、通常人の衣食住のうち、衣の部分に若干負担が軽い部分があると思われるものの、それ以外は通常人と同様の生活費を要する。

したがつて、生活費控除はするべきでなく、仮に生活費控除をするとしても、三〇パーセント以下の非常に小さな値が妥当である。

(被告の主張)

原告は、本件事故当時、喫茶店とスナツクの二カ所で昼夜にわたり勤務して年額三三四万一六〇〇円の給与を得ていたと主張するが、その現実の収入額には疑問があるうえ、将来にわたり同様の勤務形態を続けた蓋然性は低い。

逸失利益の算定に当たつては、将来得たであろう蓋然性の高い収入額を基礎とすべきである。そして、原告は、高校卒業後就労を開始し、症状固定時満二二歳であつたから、逸失利益の算定に当たつては、賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・女子労働者・旧中・新高卒・二〇~二四歳の年収を基礎とするべきである。

また、原告の症状に鑑みると、症状固定後の生活については、労働力の再生産のための諸費用(教養費、娯楽費、交通費等)を要せず、同人の生活に必要な費用は専ら自宅内における療養のための衣食費や食料費に限られるのであるから、少なくとも五〇パーセントの生活費控除をするべきである。

2  好意同乗による損害賠償額の減額

(原告の主張)

原告は、仮に被告が酒に酔つた状態であることを認識していたとしても、被告がアルコールの影響により運転を正常に行うことができない状態であつたとは考えていなかつたし、本件事故の直接の原因は、被告の高速度での無謀運転であり、酩酊が直接の原因ではない。

また、被告は以前から原告をドライブに誘つてきたという事情を考慮すれば、本件事故において、原告が被告をドライブに誘つたかどうかは疑問であるし、被告の無謀な高速度運転については、運転者である被告が全面的に主導権を持つており、同乗者にすぎない原告としては運転中の被告に対して指示しうる立場になく、同運転を容認したものではない。

したがつて、好意同乗による損害賠償額の減額は、わずかなものに過ぎないというべきである。

(被告の主張)

原告は、被告が飲酒により酒に酔つた状態(呼気一リツトルにつき、〇・二五ミリグラムのアルコールを身体に保有する状態)であることを知りながら、飲酒運転になることを承知のうえ、被告をドライブに誘い、同人の運転する加害車両に同乗し、しかも、同人が一般道路において制限速度を大幅に上回る時速一四〇キロメートルまで速度を上げても、これを制止することなくそのまま同乗し続けて本件事故に遭つた。

原告は、このように、酒に酔つた被告が無謀な高速度運転を続ける自動車に同乗することの危険を十分承知のうえ、自らすすんで加害車両に同乗して本件事故に遭つたのであるから、公平の原理に基づき過失相殺に準じて相応の損害額の減額をするべきである。

3  搭乗者傷害保険金の受領による損害の填補

(原告の主張)

原告が訴外損害保険株式会社から、平成五年八月一二日、搭乗者傷害保険金として五〇〇万円の支払いを受けたことは認めるが、同保険金の支払いは、損害の填補の対象にはならないと解するべきである。

また、原告は、死亡するまで植物状態のまま生活することを余儀なくされており、その被つた精神的苦痛は著しく大きいのであるから、同保険金の受領を慰謝料算定に当たり考慮するのは妥当でない。

(被告の主張)

原告は、被告が自動車保険契約を締結していた訴外損害保険会社から、搭乗者傷害保険金(後遺障害保険金)五〇〇万円の支払いを受けた。そして、同保険金は、原告に対して、加害車として法律上賠償責任を負う被告が保険料を支払つたことにより原告に支払われたものであるから、同保険金の受領により原告の損害が填補されたというべきである。

仮に、同保険金の受領が損害の填補にならないとしても、加害車両の運転者が自動車保険の保険料を支払つている場合、保険契約者としては、自己の運転を原因として発生した交通事故によつて搭乗者が傷害を被つたときには、同人が給付を受けた搭乗者傷害保険金をもつて見舞金とし、被害者の精神的苦痛を償おうという意思を有していたと考えるべきであり、同保険金の給付によつて被害者の精神的苦痛の一部が慰謝されたものと評価するのが相当であるから、原告が同保険金五〇〇万円を受領したことを慰謝料の算定に当たり考慮すべきである。

第三争点に対する判断

一  損害額(請求額一億六一七八万五六四六円) 一億三三一三万一八五二円

1  治療費(争いがない。) 四七九万八四六〇円

2  付添看護費 一六七万八五〇〇円

(一) 証拠(甲五、六、原告法定代理人本人)によれば、次の各事実を認めることができる。

(1) 原告は、市立三木市民病院に三七三日入院したが(争いがない。)、同人は、本件事故による障害のため、自力での食物の摂取、体位の転換、排便排尿等は不可能であり、介助者によつて体位転換やおしめの交換等をしてもらわねばならず、容態の急変に備えて常に監視が必要であつた。

(2) そして、同病院では完全看護により看護婦が原告のおしめ交換や体位転換等を行つてくれるものの、それだけでは原告にとつては不十分であり、また、看護婦はおしめ交換等を除けば二時間おきに巡回するだけなので、看護婦以外の者が原告の容態の急変に備えて常時原告を監視する必要があつた。

(3) そのため、原告の父母は、右入院期間を通じて交代で原告に付添い、同人のおしめの交換、体位転換、食事の世話、監視等に当たつた。

(二) 右認定各事実によれば、右入院期間中、原告の父と母が交代で原告に付添い看護等に当たつたのは必要かつ相当であると認められる。

そして、近親者の付添看護費は、一日当たり四五〇〇円と認めるのが相当である。

(三) したがつて、付添看護費は、次の計算式のとおり、一六七万八五〇〇円となる。

4,500×373=1,678,500

3  入院雑費 四四万七六〇〇円

入院雑費は、一日当たり一二〇〇円(ただし、原告の主張に従う。)と認めるのが相当であるから、三七三日間で右金額となる。

4  将来の付添看護費 三九五七万二八六二円

(一) 原告は、原告が平均余命期間にわたり生存することを前提に、将来の付添看護費を請求するのに対し、被告は、原告が植物状態にあることから、原告が平均余命期間にわたり生存する可能性は乏しく、余命を蓋然性のある生存期間に限定して右損害額を算定すべきであると主張するので、この点につき検討する。

(二) そもそも、人の死期を予想することは容易ではなく、植物状態患者の生存期間は、患者の年齢、付添看護をする者や担当医の熱意ないし力量・技術、治療条件、生活条件、その他患者が置かれている環境条件並びに医学の将来の進歩等に左右されることは否定しえないことである。そして、証拠(乙九の一ないし三)によれば、平成二年三月三一日当時、植物状態を脱却せずに死亡した植物状態患者のうち、その九九・五六パーセントの者が事故発生から二〇年未満で死亡していることが認められるが、事故後二〇年以上生存した者もおり(乙九の二表4)、また、事故後に植物状態を脱却した患者も相当数あること(同表5)も認められるから、植物状態患者の統計上の生存可能年数を基礎として被害者の被つた損害額を算定する方法は妥当ではないというべきである。

(三) そして、植物状態となつた被害者に同人の余命年数について鑑定等の厳格な証明を要求するとすれば、その立証のために多額の費用と時間を要するのみならず、その立証がないとして当該請求部分につき棄却されるおそれもあることも考慮すると、交通事故の被害者の迅速な救済及び当事者間の公平の見地から、植物状態となつた被害者の生存可能年数につき加害車側が個別具体的に立証しない限り、簡易生命表による平均余命を基礎としながら、将来の付添看護費については控え目な額を基にして損害額の算定を行うのが相当であると解するべきである。

(四) そこで、本件について判断するに、証拠(甲五、六、原告法定代理人本人)によれば、原告は、前記病院を退院後、同人の父宅にて父母による付添看護を受けており、原告の現症は、

(1) 体幹機能が障害されており、体位転換ができず、また、四肢筋緊張が増加しかけており、両下肢の屈曲拘縮、右上下肢の拘縮が認められ、自力移動は全く不可能である。

(2) 嚥下機能が低下し、かつ咀嚼不能であるため、流動食を摂取している。

(3) 尿・便失禁状態にある。

(4) 右目は失明し、左目眼球は、かろうじて物を追うこともあるが、認識できているか不明である。

(5) 声を出しても意味のある発言は全く不可能である。

(6) 外からの言語による簡単な命令にも応じない。

であることが認められるが、これらの事実に植物状態患者の余命期間に関する統計資料(乙九の一ないし三、乙一〇)を参酌しても、右説示にそう証明があつたとはいまだ肯認できず、ほかに原告の生存可能年数について個別具体的に証する証拠はない。

(五) したがつて、原告の父母による将来の付添看護費を算定するに当たつては、原告の余命期間を、二三歳の女性の平成元年簡易生命表(ただし、原告の主張に従う。)に基づく平均余命である五九年と推認し、付添看護費を控え目に一日当たり四〇〇〇円と認めるのが相当である。

(六) そこで、将来の付添看護費を新ホフマン方式により中間利息を控除してその現価を求めると、次の計算式のとおり、三九五七万二八六二円となる。

4,000×365×27.1047=39,572,862

5  医師に対する将来の車代 六五万〇五一二円

(一) 証拠(原告法定代理人本人、弁論の全趣旨)によれば、原告は、本件事故により両下顎を骨折したため(争いがない。)、歯の噛み合わせができないこと、そのため、原告は、歯を保全するために死亡するまで歯の治療を受ける必要があると協同歯科の医師に指示されたこと、そして、原告は、同人の父宅において、平均して一カ月に四回程度、同歯科の医師による訪問診療を受けていること、同歯科の医師は右治療費を免除していること、原告は、そのため、右医師に対し、往診ごとに車代として五〇〇円を支払つていること、したがつて、右車代は平均して月額二〇〇〇円になることがそれぞれ認められる。

(二) 右認定各事実を総合すると、原告の協同歯科の医師に対する車代五〇〇円(月額二〇〇〇円)の支払いは、社会的に相当な範囲の謝礼であり、かつ、原告が死亡するまで右支払いは継続するものと認めるのが相当であるから、原告の余命期間に関する右4の認定説示に基づき、医師に対する将来の車代を新ホフマン方式により中間利息を控除してその現価を求めると、次の計算式のとおり、六五万〇五一二円(円未満切り捨て。以下同じ。)となる。

2,000×12×27.1047≒650,512

6  家屋改造費 五九九万四六〇〇円

(一) 証拠(甲一七、原告法定代理人本人、弁論の全趣旨)によれば、次の各事実が認められる。

(1) 原告が療養している同人の父宅は、リビングルームとダイニングルームが一体となつており、そこに原告用のベツドが置かれているため、炊事の際の熱や煙が部屋に充満して部屋の空気の清浄が保てない状態である。

また、現在は同人の父が原告を抱いて同人を入浴させ、同人の母が原告の身体を洗つているが、将来のことを考慮すると補助具が必要となる。

さらに、原告の移動は、同人を車椅子に縛りつけて行うところ、現在の家屋のドアは手前に引く方式であるため、その通行に不便がある。

(2) そのため、原告の父母は、原告用に療養のための寝室を増築し、原告の入浴用に補助具を取り付けるため浴室を改造し、家屋のドアを左右に開く引き戸に変更しようと考えた。そして、原告の父母は、建築専門家に右の使用用途を説明のうえ、右家屋改築のための見積もりをしてもらつたところ、その費用は、総額五九九万四六〇〇円(ただし、消費税額を含む。)となつた。

(3) しかしながら、同人らは、資金不足のため、いまだ右家屋改造工事に着工できないでいる。

(二) 右認定各事実に、原告の後遺障害の内容・程度を斟酌すれば、右家屋改造は、必要性が認められ、その費用である五九九万四六〇〇円も相当な範囲であり、かつ、原告が本件損害賠償金を受領すれば、右改造に着手し同金額を支出することが確実であると予想されるから、右改造に要する同金額も本件事故と相当因果関係のある損害として認めるのが相当である。

7  休業損害 四九〇万七一一六円

(一) 証拠(甲七、八、原告法定代理人本人)によれば、原告は、高等学校を卒業後、会社に勤務したがその後退職し、平成元年一〇月ころから、夜はスナツクのホステス(日給七五〇〇円)として働き、これに加えて、平成二年四月ころから、昼も喫茶店のウエイトレス(日給五二〇〇円)として働いたこと、原告は、平成二年九月から同年一一月までの間に、給与として、右スナツクから合計四三万五〇〇〇円、右喫茶店から合計四〇万〇四〇〇円の各支払いを受けたことが認められる。

(二) したがつて、本件事故発生の日から症状固定日までの期間(五三六日間)の原告の休業損害は、次の計算式のとおり、四九二万〇五九七円となるところ、原告は休業損害として四九〇万七一一六円の範囲内で請求しているに止まるから、右請求の範囲内で賠償請求を認めるのが相当である。

(435,000+400,400)÷91×536≒4,920,597

8  後遺障害による逸失利益 五二〇八万二二〇二円

(一) 原告は、本件後遺障害により植物状態にあるため、症状固定日から六七歳に達するまでの四四年間(ただし、原告の主張に従う。)を通じて、その労働能力の一〇〇パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。

(二) そこで次に、後遺障害による逸失利益を算定する基礎となる原告の収入について判断する。

逸失利益の算定は、将来の稼働可能な期間全体について、長期的にみてどれだけの収入を得る蓋然性があるかという観点から考慮して推認すべきものであるところ、原告の本件事故当時の職種、勤務形態及び収入については、右7で認定のとおりであり、その職種及び勤務形態等を考慮すれば、原告が将来にわたりその職種及び勤務形態を継続し、同程度の収入を維持する蓋然性については疑問があることから、同人の逸失利益の算定にあたつては、平成四年版賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・女子労働者・新高卒・二〇~二四歳の平均年収額である二五二万四五〇〇円を基礎とするのが相当である。

(三) また、原告は、通常人と比較して、その現症から、娯楽費、教養費等の支出を要せず、被服費についてもその支出額は少ない反面、食費については、朝食分につき栄養食代を、昼夕食分につき通常人と同程度の食費を要するうえ、二時間おきに交換を要するおしめ代の支出を余儀なくされていること(原告法定代理人本人)が認められ、これに女子が死亡した場合の生活費控除に関する裁判例の動向を参酌すると、原告の逸失利益の算定のつき、生活費を一〇パーセント控除するのが相当である。

(四) そこで、右認定説示に基づき、新ホフマン方式により中間利息を控除して四四年間の逸失利益の現価を求めると、次の計算式のとおり、五二〇八万二二〇二円となる。

2,524,500×22.9230×(1-0.1)=52,082,202

9  慰謝料 二三〇〇万円

本件記録から認められる一切の事情、特に本件事故による原告の受傷内容、入院期間及び後遺障害の内容並びに原告は被告が自動車保険契約を締結していた訴外損害保険会社から、搭乗者傷害保険金(後遺障害保険金)として五〇〇万円の支払いを受けたこと(争いがない。)等を考慮すると、二三〇〇万円が相当である。

損害額の合計

以上によれば、原告が本件事故により被つた損害は、右1ないし9の損害額の合計の一億三三一三万一八五二円となる。

二  好意同乗による損害額の減額

1  証拠(甲九ないし一六、乙一ないし八)によれば、次の各事実を認めることができる。

(一) 被告と訴外塚原和彦(以下「塚原」という。)は、平成二年一二月二一日午後九時ころから翌二二日午前〇時ころまで、スナツク「エルメス」で飲酒し、その後、原告がホステスとして勤務するスナツクへ行つた。

(二) 被告と塚原が同スナツクに来店したところ、同店には原告と訴外竹中洋子(以下「竹中」という。)がホステスとして勤務していた。そこで、被告は、原告らの接待により、雑談をしながらブランデーの水割りを四、五杯飲んだ。そうするうちに、同人らは意気投合し、誰が言いだしたのかは不詳であるが、ドライブに行くことになり、原告、被告、塚原及び竹中は、同店を同日午前一時ころ出て塚原の自動車に乗車し、ドライブに出発した。

(三) 出発してしばらくすると、原告が「小野市内の私が知つている娘がいる所へ行こう。」と行つたため、同人らはそこへ行くことに決定した。しかし、その直後に塚原のポケツトベルが鳴り、同人が用事のため行けなくなつたので、原告、被告及び竹中は、塚原方前で被告の加害車両に乗り換えることにした。そして、被告は飲酒により酒気を帯びているにもかかわらず、(呼気一リツトルにつき〇・二五ミリグラムのアルコールを身体に保有する状態であつた。)、同車を運転し、助手席に竹中が、後部座席に原告がそれぞれ乗車して小野市へ向かつた。

(四) 被告は、加害車両を運転し、制限速度が時速四〇キロメートルである国道を不慣れであるにもかかわらず時速約一四〇キロメートルで走行するなどした。そして、被告は、本件事故現場直前を前照灯を下向きにして時速約八〇キロメートルで走行中、前方の歩行者を発見し、急転把急制動して本件事故を惹起させた。

2  右認定各事実、特に、原告は被告の飲食を接待し、被告が酒気帯び状態であることを十分に認識していたこと、原告が被告運転の加害車両に同乗し、小野市ヘドライブに行つた経緯、被告の酒気帯び運転が本件事故の一原因であると判断するのが相当であること等を考慮すると、損害賠償法の根底にある損害の公平な分担の理念から、過失相殺に準じて、前記損害額から三割を減額するのが相当である。

3  なお、被告は、酒に酔つた被告が無謀な高速度運転を続ける加害車両に同乗することの危険を原告は十分承知のうえ、自らすすんで同車両に同乗した旨主張するが、右のとおり、原告は被告が酒気帯び運転をすることを認識して同乗したことは認められるものの、その余の点については、これを認めるに足りる的確な証拠はない。

したがつて、被告の右主張部分は、理由がなく採用できない。

4  よつて、被告が原告に対して賠償すべき損害額は、九三一九万二二九六円となる。

三  損害の填補 七六七万四四六〇円

1  原告は、訴外損害保険会社から本件損害の填補として七六七万四四六〇円の支払いを受けた(争いがない。)から、これを損害額から控除すべきである。

2  次に、原告が受領した前記搭乗者傷害保険金(後遺障害保険金)五〇〇万円が損害の填補に当たるか検討するに、自動車保険約款の搭乗者傷害条項によれば、搭乗者傷害保険は、自動車の正規の乗車用構造装置のある場所に搭乗中の者を被保険者とし、その者の受傷に対して実際に生じた損害額とはかかわりなく定額の保険金を支払うものとされているうえ、右保険金については商法六六二条所定の保険者代位が否定されているから(顕著な事実)、右保険金は、損害の填補としての性質を有するものとは認められないと解するのが相当である。

したがつて、右金額は損害額から控除することはできず、慰謝料斟酌事由の一要素として考慮するのが相当である。

3  よつて、原告が損害の填補として受領した金員を控除すると、被告が原告に対して賠償すべき損害額は、八五五一万七八三六円となる。

四  弁護士費用(請求額一四八一万一六五八円) 八五〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害額は、八五〇万円と認めるのが相当である。

五  結論

以上によれば、原告の本訴請求は、本件損害賠償金として金九四〇一万七八三六円及びこれに対する本件事故発生の日である平成二年一二月二二日から年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由がある。

(裁判官 横田勝年 山本善彦 武田義徳)

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